奥歯のインプラント治療〜必要性と選ばない場合のリスク

執筆者情報:小室 敦

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奥歯のインプラント治療〜必要性と選ばない場合のリスク

奥歯のインプラント治療とは?基本的な理解から

奥歯を失ってしまった経験はありますか?「奥だから見えないし、そのままでも大丈夫かな」と思われる方も多いのではないでしょうか。しかし、奥歯の欠損を放置することは、思わぬリスクを伴います。

奥歯は見た目には影響が少ないものの、実は私たちの口腔内で最も重要な役割を担っている歯なのです。食べ物をしっかりと噛み砕く咀嚼の中心となり、噛み合わせ全体のバランスを決定づける要となります。

奥歯を失うと、噛む力は30〜40%も低下すると言われています。これは単に食事の楽しみが減るだけでなく、消化器官への負担増加や栄養吸収の低下にもつながるのです。

インプラント治療とは、失った歯の代わりに人工の歯根(インプラント体)を顎の骨に埋め込み、その上に人工の歯(上部構造)を装着する治療法です。特に奥歯は咀嚼の中心となる部位であるため、機能回復が非常に重要になります。

奥歯のインプラント治療は一般的に次のような流れで進みます。まず初診・診断でレントゲンやCTを使って骨の状態を確認し、治療計画を立てます。その後、局所麻酔下でインプラント埋入手術を行い、骨とインプラントが結合する期間(通常2〜6か月)を経て、最終的な人工歯を装着します。

奥歯のインプラント治療が必要な理由

「奥歯だから見えないし、インプラントにしなくても大丈夫では?」と思われるかもしれません。しかし、奥歯をインプラントで補うことには、多くの重要な理由があります。

天然歯のように噛める

入れ歯やブリッジに比べ、奥歯をインプラントにしたときの咀嚼力は最も天然歯に近いと言われています。インプラントの素材となるチタンには、骨に埋め込むことで周囲の組織と連結する性質があります。そのため、時間が経過するにつれ骨と結合し、しっかりと噛めるようになるのです。

奥歯が入れ歯の場合は硬いもの(お肉やお煎餅など)や粘着性のあるもの(キャラメルやお餅など)を噛んでスムーズに食べることは困難です。しかし、インプラントにすれば天然の歯と同じようにしっかり噛むことができるようになり、食べ物に制限なく過ごせるようになります。

噛み合わせのバランスが整う

奥歯がなくなると噛む力に偏りが生じ、噛み合わせのバランスが崩れてしまいます。噛み合わせが悪いと肩こりや頭痛、顔の歪みなど身体に影響が及ぶこともあります。インプラントで噛み合わせを調整することで、身体のバランスを整えることができるのです。

発音がしやすくなる

奥歯は発音に非常に影響しており、奥歯がないと息がそこから漏れ、発音がうまくできないことがあります。特に「き」「し」「ち」などのイ段の発音ができなくなる場合が多いです。噛み合わせの良いインプラントにすることでハッキリと発音できるようになり、会話の際に感じるストレスが軽減されます。

顎の骨の吸収を抑える

歯を失うと歯を支える顎の骨は刺激を受けなくなりどんどん痩せていきます(吸収)。入れ歯やブリッジでは顎の骨に刺激を伝えることはできませんが、インプラントは人工歯根が顎の骨と結合しているため、天然歯と同等の刺激を伝えられます。これにより、顎の骨の吸収を防ぎ、お顔の形を維持することができます。

奥歯をインプラントにしない場合のリスク

奥歯の欠損を放置することには、様々なリスクが伴います。時間の経過とともに、これらの問題は徐々に深刻化していくことが多いのです。

残存歯への過剰な負担

奥歯を失うと、残りの歯に大きな負担がかかります。奥歯には本来、強い噛む力がかかっていますが、その歯がなくなると、他の歯がその負担を引き受けることになります。この過剰な負担により、残っている歯が疲労し、折れやすくなったり、早期に失われたりするリスクが高まります。

特にお伝えしておきたいのは、奥歯は噛み合わせの重要な役割を担っており、奥歯が欠損したままでは前歯はあっという間にフレアアウト(前歯が前方に傾斜して出っ歯になる)してしまうということです。しかも一度フレアアウトした前歯は元に戻すことはほぼ不可能です。つまり奥歯がしっかり噛めるということは前歯の将来を守ることにも繋がるわけです。

噛み合わせの不調和と全身への影響

奥歯の欠損により噛み合わせのバランスが崩れると、それは単に口の中だけの問題ではなくなります。不調和な噛み合わせは、顎関節症や頭痛、肩こり、姿勢の悪化など、全身に様々な影響を及ぼす可能性があります。

噛み合わせは人の歯全てがしっかり噛み合っていることが理想的です。噛み合わせがずれると歯以外にも様々な不調がおきてしまいます。

消化機能の低下と栄養吸収への影響

奥歯を失うと、食べ物を十分に噛み砕くことができなくなります。食べ物を細かく噛み砕くことは消化の第一段階であり、これが不十分だと胃腸に負担がかかり、栄養の吸収効率も低下します。

奥歯を1本失うと噛む力は30〜40%低下し、食べ物の消化・吸収が悪くなると言われています。これは長期的な健康状態に影響を与える可能性があります。

顔の形態変化

歯を失うと、その部分の顎の骨が徐々に痩せていきます。特に奥歯の欠損が長期間続くと、頬がこけたり、顔の下半分が短くなったりするなど、顔の形に変化が現れることがあります。

奥歯を失ったままにしておくと噛み合わせが狂い、やがて顔の輪郭にも影響を及ぼします。失った歯の周りの骨がなくなっていくことでも輪郭に影響を与えます。

奥歯のインプラント治療の難しさとは

奥歯のインプラント治療には、前歯とは異なる特有の難しさがあります。これらの課題を理解し、適切な対応ができる歯科医院を選ぶことが重要です。

上顎洞との関係

前歯のインプラントは、骨が薄いことや審美面で治療が難しいと一般的によく言われていますが、上顎の奥歯も難易度の高い治療になります。その理由は、鼻の横と目の下辺りにある「上顎洞」と呼ばれる空洞が原因です。

この空洞があることによって、上顎は奥歯にかけて骨が薄い傾向にあること、そして上顎洞の底にはシュナイダー膜という薄い皮膜があり、この膜が破れると炎症を起こす可能性があるため、シュナイダー膜を破らないように慎重に治療を行わなければならないこと、この二つが要因で治療が難しくなるのです。

下歯槽神経への配慮

下顎の奥歯のインプラント治療では、下歯槽神経という重要な神経への配慮が必要です。この神経は下顎骨の中を通っており、誤って傷つけると唇や顎のしびれなどの後遺症が残る可能性があります。

下顎の第二小臼歯より後ろは下歯槽神経に干渉しないように注意が必要です。そのため、CTなどの精密な検査で神経の位置を正確に把握した上で治療計画を立てることが不可欠です。

噛む力の強さへの対応

奥歯は前歯と比べて非常に強い咬合力がかかります。男性の奥歯で約60kg、女性でも約40kgの力がかかると言われており、思いっきり噛み締めた時は約70kgにもなります。そのため、インプラントの設計や材質選択において、この強い力に耐えられるよう配慮する必要があります。

奥歯は噛む力が強いため噛み合わせの調整がシビアになります。適切な噛み合わせの調整ができないと、インプラントに過度な負担がかかり、長期的な成功率に影響することがあります。

奥歯のインプラント治療を成功させるポイント

奥歯のインプラント治療を成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。これらを理解し、適切な歯科医院を選ぶことで、長期的に安定したインプラント治療の結果を得ることができます。

精密な診査診断の重要性

奥歯のインプラント治療では、CTなどを用いた精密な診査診断が不可欠です。骨の量や質、上顎洞や下歯槽神経との位置関係を正確に把握することで、安全かつ効果的な治療計画を立てることができます。

CTでしっかり診断されることが必要不可欠です。特に上顎の奥歯では、上顎洞との関係を詳細に把握することが重要です。また、下顎では神経の位置を正確に把握し、安全な埋入位置を決定する必要があります。

経験豊富な歯科医師の選択

インプラント治療は歯科医師の技術や経験によって成功率が大きく左右されます。特に奥歯のインプラント治療は難易度が高いため、この分野での豊富な経験と実績を持つ歯科医師を選ぶことが重要です。

米国の大学の調査では、歯科医師がインプラントの専門医教育を修了していないと、インプラントのリスクが5倍になるという報告もあります。インプラント治療は、歯が入れば良いというものではありません。治療後に長持ちし、快適に噛め、自然で美しい口元になるように治療を行うには、専門的な高い技術が必要です。

適切なメンテナンスの継続

インプラント治療後も定期的なメンテナンスが非常に重要です。特に奥歯は清掃が難しい部位であり、インプラント周囲炎のリスクが高まります。

インプラント周囲炎とは、インプラント周辺の組織が細菌に感染し、炎症が起きる症状です。症状が進むと、あごの骨にまで炎症が広がり、骨が溶け、インプラントを支えきれずぐらつくようになります。最終的には、インプラントが脱落してしまうケースもあります。

インプラントは直接あごの骨につながっていて、炎症に弱いため、進行が早いといわれています。そのため、軽い炎症でもすぐにあごの骨が吸収されてしまい、インプラントの土台が不安定になる可能性が高いでしょう。定期的なメンテナンスと適切なセルフケアで、これらのリスクを最小限に抑えることができます。

まとめ:奥歯のインプラント治療の重要性

奥歯のインプラント治療は、見た目には影響が少ないものの、咀嚼機能や全身の健康維持において非常に重要な役割を果たします。奥歯を失った場合、インプラント治療によって天然歯に近い機能を回復することで、様々なメリットを得ることができます。

奥歯をインプラントにするメリットとして、天然歯のように噛める、噛み合わせのバランスが整う、発音がしやすくなる、顎の骨の吸収を抑えるなどが挙げられます。一方、奥歯の欠損を放置すると、残存歯への過剰な負担、噛み合わせの不調和と全身への影響、消化機能の低下、顔の形態変化などのリスクがあります。

奥歯のインプラント治療には上顎洞との関係や下歯槽神経への配慮、強い咬合力への対応など、特有の難しさがありますが、精密な診査診断、経験豊富な歯科医師の選択、適切なメンテナンスの継続によって、長期的に安定した結果を得ることができます。

奥歯の健康は全身の健康に直結します。奥歯を失った場合は、早めに専門医に相談し、適切な治療を受けることをお勧めします。表参道AK歯科・矯正歯科では、インプラント治療に関する無料カウンセリングを実施しております。奥歯の問題でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

詳しい情報や無料カウンセリングのご予約は、表参道AK歯科・矯正歯科のウェブサイトをご覧ください。経験豊富な専門医が、あなたに最適な治療法をご提案いたします。

表参道AK歯科・矯正歯科 院長:小室 敦

院長 小室 敦

https://doctorsfile.jp/h/197421/df/1/

略歴

  • 日本歯科大学 卒業
  • 日本歯科大学附属病院 研修医
  • 都内歯科医院 勤務医
  • 都内インプラントセンター 副院長
  • 都内矯正歯科専門医院 勤務医
  • 都内審美・矯正歯科専門医院 院長

所属団体

  • 日本矯正歯科学会
  • 日本口腔インプラント学会
  • 日本歯周病学会
  • 日本歯科審美学会
  • 日本臨床歯科学会(東京SJCD)
  • 包括的矯正歯科研究会
  • 下間矯正研修会インストラクター
  • レベルアンカレッジシステム(LAS)

参加講習会

  • 口腔インプラント専修医認定100時間コース
  • JIADS(ペリオコース)
  • 下間矯正研修会レギュラーコース
  • 下間矯正研修会アドバンスコース
  • 石井歯内療法研修会
  • SJCDレギュラーコース
  • SJCDマスターコース
  • SJCDマイクロコース
  • コンセプトに基づく包括的矯正治療実践ベーシックコース (綿引 淳一 先生)
  • 新臨床歯科矯正学研修会専門医コース 診断・治療編(石川 晴夫 先生)
  • 新臨床歯科矯正学研修会専門医コース 応用編(石川 晴夫 先生)
  • レベルアンカレッジシステム(LAS)レギュラーコース
  • 他多数参加

 

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