ワイヤー矯正で口元を下げる“設計”とは?抜歯・IPR・遠心移動の適応を専門的に解説

Contents
- 1 口元を引っ込める矯正治療の「設計」とは
- 2 治療設計の要「セファロ分析」とは
- 3 セファロ分析で分かること
- 4 Eラインは絶対的な基準ではない
- 5 スペース確保の方法①「抜歯」
- 6 抜歯が検討されやすいケース
- 7 抜歯を避けたい場合の選択肢
- 8 スペース確保の方法②「IPR(ディスキング)」
- 9 IPRのメリット
- 10 IPRの注意点
- 11 スペース確保の方法③「遠心移動」
- 12 アンカースクリューとは
- 13 遠心移動が適応となる症例
- 14 遠心移動の失敗例
- 15 スペース確保の方法④「歯列拡大」
- 16 歯列拡大のメリットとリスク
- 17 骨格タイプ別の治療戦略
- 18 タイプA:上下顎前突(上下ともに出っ張る典型的な口ゴボ)
- 19 タイプB:上顎前突(上顎だけ出ている)
- 20 タイプC:下顎後退(下顎が小さいため上顎が出て見える)
- 21 治療設計における重要な考慮事項
- 22 年齢と顔貌の変化
- 23 ほうれい線への影響
- 24 鼻下の長さ
- 25 下顎の粘膜の厚み
- 26 患者さまの好みとのすり合わせ
- 27 表参道AK歯科・矯正歯科の治療設計へのこだわり
- 28 まとめ:口元を下げる治療は「設計」が9割
- 29 表参道AK歯科・矯正歯科 院長:小室 敦
口元を引っ込める矯正治療の「設計」とは
「口ゴボ」と呼ばれる口元の突出感を改善したい・・・そんな悩みを抱える患者さまは少なくありません。
ワイヤー矯正で口元を下げるためには、単に歯を並べるだけでは不十分です。治療の成否を決めるのは、実は「治療設計」にあります。どの歯をどの方向にどれだけ動かすのか、抜歯が必要なのか、それとも別の方法でスペースを確保できるのか・・・これらを0.1mm単位で診断し、計画を立てることが求められます。
建物を建てる際に設計図が必要なように、矯正治療にも緻密な設計図が必要です。しかし、治療の設計図をルーティンで作成している矯正医は全体のわずか6%という報告もあります。設計図がないと、勘と経験だけが頼りとなり、治療期間が伸びたり、思わしくない結果になるリスクが高まります。
この記事では、口元を下げるための治療設計について、抜歯、IPR、遠心移動といったスペース確保の方法と、それぞれの適応基準を専門的な視点から解説します。

治療設計の要「セファロ分析」とは
口元を下げる矯正治療において、最も重要な診断資料が「セファロ分析」です。
セファロとは、横顔のレントゲン写真から骨格や歯の位置を計測・分析する手法のこと。鼻先、上唇、下唇、顎先の位置関係を数値化し、骨格的に顎や歯がどこに位置するのかを正確に診断します。この分析なしに、適切な治療方針を立てることはできません。
セファロ分析で分かること
セファロ分析では、以下のような項目を評価します。
- 上下顎の前後的な位置関係・・・上顎が前に出ているのか、下顎が後ろに下がっているのか
- 前歯の角度と位置・・・前歯がどの程度前方に傾斜しているか
- Eラインとの関係・・・鼻先と顎先を結んだ線に対して、唇がどの位置にあるか
- 顔面の縦の比率・・・下顔面の長さが口元の突出感に与える影響
これらのデータを総合的に判断することで、「抜歯が必要か」「どの歯を抜くべきか」「どれくらい口元を下げられるか」といった治療方針が明確になります。
Eラインは絶対的な基準ではない
Eラインは、1950年代に米国の矯正歯科医リケッツ先生が提唱した指標で、鼻先と顎先を結んだ線のことです。この線から唇がどれだけ前に出ているかで、口元の突出感を評価します。
ただし、Eラインは欧米人の骨格を基準に設計されたものです。日本人は欧米人に比べて鼻が低く、顎が控えめな傾向があるため、唇がEラインより前にあっても自然なことが多いのです。それを無理に欧米基準に合わせようとすると、不自然な横顔になる可能性があります。
矯正治療の現場では、Eラインはあくまで「ひとつの目安」にすぎません。ナソラビアルアングル(鼻と上唇が作る角度)、サブナザーレ-パーペンディキュラー(上下唇距離)、顔面のバーティカルプロポーション(縦の比率)、口唇閉鎖能(口が自然に閉じられるかどうか)など、複数の指標を総合的に評価することが重要です。
スペース確保の方法①「抜歯」
口元を大きく引っ込めたい場合、最も確実な方法が「抜歯」です。
一般的には、前から4番目の歯(第一小臼歯)を抜くことが多く、これにより片側約7〜8mmのスペースを確保できます。上下左右で4本抜歯すれば、合計で約28〜32mmのスペースが得られ、前歯を大きく後方に移動させることが可能になります。
抜歯が検討されやすいケース
以下のような症例では、抜歯による治療が検討されやすくなります。
- 上下顎前突・・・上下の前歯が両方とも前方に突出している典型的な「口ゴボ」
- 重度の叢生・・・歯の重なりが強く、非抜歯では並べるスペースが不足
- Eラインから大きく唇が前に出ている・・・口元の突出感が顕著
- 口唇閉鎖不全・・・口が自然に閉じられず、常に力を入れないと閉じられない
抜歯矯正のメリットは、口元の変化が大きく、Eラインが整いやすいこと。デメリットは、健康な歯を失うこと、歯の移動距離が長いため治療期間がやや長くなる傾向があることです。
抜歯を避けたい場合の選択肢
「健康な歯を抜きたくない」という患者さまの声は多く聞かれます。その場合、IPR(歯を削る)、遠心移動(歯を後ろに下げる)、歯列拡大(歯列を横に広げる)といった方法でスペースを確保できる可能性があります。
ただし、これらの方法で確保できるスペースには限界があります。無理に非抜歯で治療を進めると、「口ゴボが改善されない」「治療後に後戻りしやすい」「歯が骨の外に飛び出してしまう」といったリスクが生じます。

スペース確保の方法②「IPR(ディスキング)」
IPR(Interproximal Reduction)とは、歯の隣接面(横の部分)のエナメル質を、専用のヤスリやディスクでわずかに削合し、隙間を作る処置です。
歯の表面にある「エナメル質」の厚さは約1〜2mmです。IPRで削るのは、そのうちの0.2〜0.5mm程度(名刺1〜2枚分の厚さ)であり、神経のない最表層のみです。そのため、麻酔は不要で痛みもありません。
IPRのメリット
- 健康な歯を抜かずに済む・・・抜歯を避けたい患者さまにとって有効
- 歯の形を整えられる・・・ブラックトライアングル(歯茎の隙間)を改善できる
- 後戻りしにくくなる・・・歯の接触面が「面」になり、安定性が向上
IPRの注意点
IPRで作れるスペースには限界があります。全顎で最大5〜6mm程度が目安です。軽度の叢生や、わずかに口元を引っ込めたい場合には有効ですが、重度の症例では不十分な場合があります。
また、健康な歯を削ることに抵抗を感じる方もいらっしゃいます。ただし、削るのはエナメル質の安全圏内であり、適切に行えば虫歯のリスクが高まることはありません。
スペース確保の方法③「遠心移動」
遠心移動とは、一番奥の歯から順番に後方(喉の方向)へスライドさせ、前歯を並べるスペースを作る方法です。
この方法は、マウスピース矯正(インビザライン)で注目されることが多いですが、ワイヤー矯正でも「歯科矯正用アンカースクリュー」を併用することで、より確実に遠心移動を行うことができます。
アンカースクリューとは
アンカースクリューとは、歯茎の骨に直径1.5mm程度の小さなネジを埋め込み、そこを固定源にして歯を引っ張る技術です。
- 確実性・・・固定源が動かないため、狙った通りに奥歯を下げられる
- 痛み・・・処置は局所麻酔下で行い、痛みはほとんどない
- 代償・・・遠心移動を行う場合、スペース確保のために「親知らず」の抜歯がほぼ必須
遠心移動が適応となる症例
遠心移動が適応となるのは、以下のような条件を満たす場合です。
- 奥歯の後方に十分なスペースがある・・・顎が小さい場合は難しい
- 軽度〜中等度の症例・・・重度の出っ歯や叢生には不向き
- 骨格に問題がない・・・骨格性の問題がある場合は外科手術が必要
日本人は奥歯の後方の骨の奥行きが少ない傾向があり、遠心移動ができないこともあります。また、マウスピース矯正単独の遠心移動の限界は2mm程度といわれており、それ以上のスペースが必要な場合は、ワイヤー矯正やアンカースクリューの併用が推奨されます。
遠心移動の失敗例
遠心移動は難しい技術のため、失敗する可能性もあります。計画通りに歯が奥に移動しなかったり、奥歯が傾斜してしまったり、前歯が前方に飛び出してしまったりするケースがあります。
こうした失敗を避けるためには、精密な診断と治療計画、そして確実な固定源(アンカースクリュー)の使用が重要です。
スペース確保の方法④「歯列拡大」
歯列拡大とは、狭くなっている歯列(V字型)を、理想的なU字型に広げることでスペースを作る方法です。
ここで重要な事実があります。成長期の子供(小児矯正)であれば、骨の継ぎ目を広げて「顎の骨自体」を拡大できます。しかし、大人の骨はもう広がりません。大人の歯列拡大とは、内側に倒れている歯を起こしたり、歯槽骨(歯を支える骨)の安全な範囲内で歯を外側に移動させることを指します。
歯列拡大のメリットとリスク
歯列拡大のメリットは、抜歯を避けられる可能性があること、口腔内のスペースが広がることです。デメリットは、拡大できる範囲に限界があること、無理に拡大すると歯が骨の外に飛び出してしまうリスクがあることです。
特に、歯槽骨の薄い部分に無理に歯を動かすと、歯肉退縮(歯茎が下がる)や歯根露出といった問題が生じる可能性があります。そのため、歯列拡大は慎重に適応を見極める必要があります。
骨格タイプ別の治療戦略
口元の突出感は、歯の位置だけでなく、骨格のバランスにも大きく影響されます。骨格タイプによって、適切な治療戦略が異なります。
タイプA:上下顎前突(上下ともに出っ張る典型的な口ゴボ)
上下の前歯が両方とも前方に突出している状態です。このタイプは、抜歯矯正が最も効果的なケースが多いです。上下左右の第一小臼歯を抜歯し、前歯を大きく後方に移動させることで、口元の突出感を大幅に改善できます。
タイプB:上顎前突(上顎だけ出ている)
上顎の前歯だけが前方に突出している状態です。このタイプは、上顎のみの抜歯、または遠心移動で対応できる場合があります。下顎は正常な位置にあるため、上顎だけを後方に移動させることで、バランスの取れた口元を実現できます。
タイプC:下顎後退(下顎が小さいため上顎が出て見える)
下顎が小さく後方に位置しているため、相対的に上顎が出て見える状態です。このタイプは、無理に上顎を引っ込めると、さらに不自然な横顔になる可能性があります。
成長期であれば、下顎の成長を促す治療が有効です。成人の場合は、外科矯正(下顎を前方に移動させる手術)を併用することで、理想的な横顔を実現できる場合があります。
このタイプで注意すべきは、「下顎が下がっているところに口元を合わせ過ぎる」ことです。本来なら、平均から引っ込みすぎている下顎を基準にするのではなく、顔全体のバランスを考慮した治療計画が必要です。

治療設計における重要な考慮事項
口元を下げる治療設計では、以下のような要素も考慮する必要があります。
年齢と顔貌の変化
年齢を考慮していなかったために、治療後に「口元が下がりすぎた」と感じるケースがあります。加齢とともに、唇のボリュームは減少し、口元は自然に引っ込んでいく傾向があります。若い時期に口元を引っ込めすぎると、年齢を重ねた際に老けた印象になる可能性があります。
ほうれい線への影響
口元を大きく引っ込めると、ほうれい線が目立つようになる場合があります。特に、もともと頬の脂肪が少ない方や、皮膚のハリが低下している方では、この傾向が顕著です。治療前に、ほうれい線への影響も考慮した治療計画を立てることが重要です。
鼻下の長さ
口元を引っ込めると、鼻下の長さが長く見えることがあります。これは、上唇が後方に移動することで、鼻と上唇の距離が相対的に長く見えるためです。鼻下が長いと、老けた印象や間延びした印象を与える可能性があります。
下顎の粘膜の厚み
下顎の粘膜が薄い方では、口元を引っ込めすぎると、下唇が薄く見えたり、顎先が目立ちすぎたりする場合があります。治療前に、軟組織の厚みも評価することが重要です。
患者さまの好みとのすり合わせ
「自分好みの顔とは違った」という後悔を避けるためには、治療前に患者さまの希望をしっかりと聞き取り、治療後の顔貌をシミュレーションすることが重要です。横顔の写真やセファロ分析をもとに、「どれくらい口元を下げるか」を患者さまと一緒に決定していきます。
表参道AK歯科・矯正歯科の治療設計へのこだわり
当院では、治療開始前に必ず治療の設計図を作成し、患者さまごとの骨格やご希望を踏まえた治療のゴールと治療計画を明確にしています。
抜歯の必要の有無や、どの歯をどの方向にどれだけ動かすのかを0.1mm単位で診断し、治療後の顔貌の変化もシミュレーションしてご説明しています。また、矯正治療のゴールとして、きれいに並んだ歯列、よく噛める咬み合わせに加えて、きれいなフェイスラインの獲得をめざしています。
美しいフェイスラインは人種によっても基準が異なり、日本人には日本人の美しいフェイスラインというものがあります。当院の院長は、日本人のフェイスラインの基準を示した学術論文の共同研究者でもあり、美しいフェイスラインにこだわりをもって治療しています。
診断力の高さは、緻密な治療計画をどれだけ多くこなしてきたかによって培われます。当院の院長は矯正歯科専門で25年以上のキャリアがあり、歯科医師向けの診断セミナーや他院のドクターに対しての症例相談会の講師も務めており、数多くの症例を見てきています。
まとめ:口元を下げる治療は「設計」が9割
ワイヤー矯正で口元を下げるためには、緻密な治療設計が不可欠です。
抜歯、IPR、遠心移動、歯列拡大・・・それぞれの方法には、メリットとデメリット、適応となる症例と適応外の症例があります。どの方法を選択するかは、セファロ分析をはじめとする精密な診断に基づいて決定されます。
また、骨格タイプ、年齢、ほうれい線、鼻下の長さ、患者さまの好みなど、多くの要素を総合的に考慮することが重要です。設計図のない治療は、勘と経験だけが頼りとなり、思わしくない結果を招くリスクが高まります。
口元を引っ込めたいとお考えの方は、まず信頼できる矯正歯科で精密な診断を受け、治療の設計図を確認することをおすすめします。
表参道AK歯科・矯正歯科では、無料カウンセリングを実施しております。口元の悩み、治療方法、費用など、どんなことでもお気軽にご相談ください。あなたに最適な治療設計をご提案いたします。
表参道AK歯科・矯正歯科 院長:小室 敦

https://doctorsfile.jp/h/197421/df/1/
略歴
- 日本歯科大学 卒業
- 日本歯科大学附属病院 研修医
- 都内歯科医院 勤務医
- 都内インプラントセンター 副院長
- 都内矯正歯科専門医院 勤務医
- 都内審美・矯正歯科専門医院 院長
所属団体
- 日本矯正歯科学会
- 日本口腔インプラント学会
- 日本歯周病学会
- 日本歯科審美学会
- 日本臨床歯科学会(東京SJCD)
- 包括的矯正歯科研究会
- 下間矯正研修会インストラクター
- レベルアンカレッジシステム(LAS)
参加講習会
- 口腔インプラント専修医認定100時間コース
- JIADS(ペリオコース)
- 下間矯正研修会レギュラーコース
- 下間矯正研修会アドバンスコース
- 石井歯内療法研修会
- SJCDレギュラーコース
- SJCDマスターコース
- SJCDマイクロコース
- コンセプトに基づく包括的矯正治療実践ベーシックコース (綿引 淳一 先生)
- 新臨床歯科矯正学研修会専門医コース 診断・治療編(石川 晴夫 先生)
- 新臨床歯科矯正学研修会専門医コース 応用編(石川 晴夫 先生)
- レベルアンカレッジシステム(LAS)レギュラーコース
- 他多数参加






