顎関節症と関節円板損傷の基礎知識
顎関節症でお悩みの方は少なくありません。口を開けると「カクッ」という音がする、顎に痛みがある、口が大きく開かないといった症状に心当たりはありませんか?
これらの症状の多くは、顎関節内にある「関節円板」と呼ばれる組織の損傷が原因となっていることが多いのです。関節円板は顎の動きをスムーズにするためのクッションの役割を果たす重要な組織です。この円板がズレたり変形したりすることで、様々な不快症状が現れます。
顎関節は左右両方の関節頭が連動して動く特殊な関節であり、前後・上下・左右と多方向に動く複雑な構造をしています。そのため、一方の動きがもう一方にも影響を与える相互関係があるのが特徴です。
顎関節の構造は主に下顎頭、下顎窩、そして関節円板から成り立っています。関節円板は骨同士が直接擦れないようクッションの役割を果たし、顎のなめらかな開閉運動を可能にしています。この円板がうまく機能しなくなると、顎関節症の症状が現れるのです。

Contents
関節円板損傷の主な原因と症状
関節円板が損傷する原因は実に様々です。日常生活の中でも知らず知らずのうちに顎関節へ負担をかけていることがあります。
顎関節症の主な原因として考えられるのは、顎や骨格の不均衡、歯の欠損や咬み合わせの変化、上下顎や体の中心軸のずれなどの構造的な問題です。また、吹奏楽器の演奏による顎への負荷、頬杖をつく習慣、就寝時の姿勢なども原因となります。さらに、精神的緊張やストレス、リウマチなどの全身疾患も関連していることがあります。
米国整形・補装具学会(AAOP)のガイドラインによれば、RCP(後退接触位)とICP(中心咬合位)のズレが2mm以上ある場合や、オーバージェットが6mm以上ある場合などは、咬合と顎関節症の関連性を示す指標とされています。
関節円板損傷による主な症状には、以下のようなものがあります。
- 開口時の音(カクッという音):関節円板が前方に大きく転位していると、顎を開ける際に「カクッ」という音がします。
- 顎の痛み:関節円板のズレにより、顎を動かす際に痛みを感じることがあります。
- 開口制限:口が大きく開かない、または開けにくいといった症状が現れます。
- 顎の引っかかり感:顎を動かす際に、スムーズに動かないという感覚があります。
これらの症状がある場合、関節円板のズレや変形が進行している可能性があります。特に「カクッ」という音から「ゴリゴリ」「グリグリ」といった濁音を伴う音に変わってきた場合は、関節そのものが変形し始めている可能性もあるため、早めの受診が望ましいでしょう。
関節円板損傷のメカニズムと進行過程
関節円板損傷は、どのようなメカニズムで起こり、どのように進行していくのでしょうか。顎関節症の代表的なメカニズムには「関節円板前方転位」と「関節円板の変形」があります。
正常な顎関節では、関節円板が適切な位置にあり、顎の開閉に合わせてクッションのように働いています。しかし、何らかの原因で関節円板が前方にズレると、「関節円板前方転位」の状態になります。
口を開く際に「カクッ」というクリック音が生じ、閉口時にも再び音がすることがあります。開閉口の両方で音が出る場合は「相反性クリック」と呼ばれます。
転位の程度が軽い場合は一時的な音のみで済みますが、ズレが大きくなると動きに制限が出ることもあります。さらに進行すると、関節円板自体が変形してしまい、開閉口のどの位置でも正常な動きが得られず、違和感や痛みを感じるようになります。
関節円板前方転位の初期段階では、口を開けるときに「カクッ」という音がするものの、その後は口を大きく開けることができます。これを「復位を伴う関節円板前方転位」といいます。
しかし、症状が進行すると、関節円板が完全に前方に転位したままとなり、口を開けても関節円板が元の位置に戻らなくなります。これを「復位を伴わない関節円板前方転位」と呼び、口の開きが制限されるようになります。
関節円板の変形が大きい場合、顎を開ける際に関節空間が狭くなり、「シャリシャリ」といった摩擦音がしたり、顎の動きが引っかかって痛みを伴うことがあります。
顎の周囲は筋肉・軟骨・神経など多くの組織が関係しており、少しのズレでも複数の症状を引き起こすことがあります。「顎が痛い」「口を開けにくい」「音がする」といった症状がある場合には、早めに歯科医師に相談することが重要です。

顎変形症と関節円板損傷の関連性
鏡を見たときに、顎が左右どちらかにずれているように感じることはありませんか?顔は理想的には左右対称ですが、多くの方には少しずつズレがあります。そのズレが気になる場合は、見た目だけでなく、噛み合わせや顎の動きにも影響することがあります。
顎のずれは、上顎や下顎の大きさや位置の違いが原因で起こることが多く、「顎変形症」と呼ばれています。これが原因で歯並びの乱れや顔の歪みが生じたり、顎関節や筋肉に負担をかけたりする場合もあります。
顎変形症とは、上顎や下顎の骨の大きさ・位置の異常によって噛み合わせにズレが生じる状態です。代表的な症状には、上顎が前に出た「上顎前突(出っ歯)」、下顎が突き出た「下顎前突(受け口・しゃくれ)」、上下の顎が左右にずれている「顎の偏位」などがあります。
顎変形症のタイプには、以下のようなものがあります。
- 上顎前突症:いわゆる「出っ歯」の中でも、上の顎の骨そのものが前方に突き出している状態です。
- 下顎前突症:「受け口」とも呼ばれるタイプで、下の顎の骨が前に出すぎている状態です。
- 小下顎症・下顎後退症:下顎の骨が十分に発達せず、小さすぎる状態です。横顔で顎が後ろに引っ込んで見えたりします。
- 上顎後退症:上顎の骨の成長が不十分なことで、顔の中央がへこんだように見える症状です。
- 開咬症:奥歯は噛み合っているのに、前歯が噛み合わず、常に隙間が空いてしまう状態です。
- 顔のゆがみ(顔面非対称):顔の左右非対称は、上顎や下顎の骨格に生じた左右差が主な原因です。
顎変形症と関節円板損傷は密接に関連しています。顎のズレが原因で咬み合わせのバランスが崩れると、顎関節に過度な負担がかかり、関節円板の損傷を引き起こす可能性があるのです。
逆に、関節円板損傷が進行すると、顎の位置が変化し、顔の形にも影響を与えることがあります。このような悪循環を断ち切るためには、早期の適切な診断と治療が重要です。
関節円板損傷の診断方法と最新技術
関節円板損傷の正確な診断には、専門的な知識と最新の診断技術が必要です。表参道AK歯科・矯正歯科では、AIを活用した独自のデジタル診断を導入しており、矯正治療のインストラクターとして歯科医師に指導を行う経験豊富な歯科医師が担当しています。
診断の第一歩は、詳細な問診と臨床検査です。顎の痛みや音、開口制限などの症状がいつから始まったのか、どのような状況で悪化するのかなどを詳しく聞き取ります。そして、顎の動きや咬み合わせ、筋肉の状態などを丁寧に検査します。
さらに精密な診断のために、以下のような検査が行われることがあります。
- MRI検査:関節円板の位置や形状を詳細に観察することができます。
- CT検査:骨の状態や顎のズレを立体的に評価できます。
- 顎運動検査:顎の動きを詳細に分析し、異常を検出します。
- 咬合分析:咬み合わせのバランスを評価します。
当院のデジタル診断は、単なる評価にとどまらず、治療方針の策定に直結します。顎のズレや咬み合わせの状態を正確に把握し、咀嚼や発音などの機能面まで考慮した、見た目と機能の両立を目指す包括的な治療をご提供いたします。
診断後の精密検査により、矯正だけでなく顎関節や顎のズレまで含めた総合的な診断を行い、その結果をもとに最適な治療計画を立案します。
最新のAI技術を活用することで、従来の診断方法では見逃されていた微細な異常も検出できるようになり、より精度の高い診断が可能になっています。
関節円板損傷からの回復プロセスと治療法
関節円板損傷からの回復には、症状の程度や原因によって様々なアプローチがあります。軽度の症状であれば保存的治療から始め、症状が改善しない場合には外科的治療を検討することもあります。
まずは、保存的治療として以下のようなアプローチが考えられます。
- 生活習慣の改善:頬杖をつかない、硬いものを控えるなど、顎への負担を減らす工夫をします。
- スプリント療法:就寝時などに装着するマウスピースで、顎関節への負担を軽減します。
- 理学療法:顎の筋肉のストレッチや、適切な開閉口運動の訓練を行います。
- 薬物療法:痛みや炎症を抑えるための薬を処方することがあります。
- 咬合調整:咬み合わせのバランスを整えることで、顎関節への負担を減らします。
これらの保存的治療で改善が見られない場合、または症状が重度の場合には、矯正治療や外科的治療が検討されます。
矯正治療は、歯の位置を整え、噛み合わせを改善することで機能性と見た目のバランスを整える治療です。ワイヤー矯正やマウスピース矯正が用いられ、食事や発音がしやすくなり、審美的な印象も向上します。
骨格の大きなずれがある場合は、矯正だけでの解決が難しく、外科的矯正治療(顎矯正手術)を併用することが一般的です。この治療では、顎の骨を理想的な位置に移動させてかみ合わせを整えます。手術は口腔内から行うため、顔に傷跡が残ることはありません。
なお、顎変形症は「保険適用」の対象であり、所定の施設であれば矯正治療や手術・入院費用も健康保険の範囲で受けることが可能です。
回復プロセスは個人差がありますが、一般的には以下のような流れになります。
- 診断・治療計画の立案:詳細な検査と診断に基づいて、最適な治療計画を立てます。
- 初期治療:痛みや炎症の軽減を目指した治療を行います。
- 本格的な治療:原因に応じた矯正治療や外科的治療を進めます。
- リハビリテーション:顎の機能を回復させるためのトレーニングを行います。
- メンテナンス:定期的な検診で状態を維持します。
治療期間は症状の程度や選択する治療法によって異なりますが、数ヶ月から数年かかることもあります。しかし、適切な治療を受けることで、多くの患者さまが症状の改善を実感されています。

関節円板損傷を放置するリスクと予防法
関節円板損傷を放置すると、様々なリスクが生じる可能性があります。機能面、健康面、審美面それぞれにおいて問題が発生する恐れがあるため、早期の適切な対応が重要です。
機能面のリスクとしては、顎のズレやかみ合わせの不具合により、食べ物を十分に噛み砕けなくなることがあります。これが続くと、食べ物の飲み込みにも支障が出る可能性があります。また、かみ合わせの乱れは発音にも影響し、特に「サ行」や「タ行」などの音がはっきりと発音しづらくなることがあります。
健康面では、口がきちんと閉じられない場合、口腔内が乾燥しやすくなり、むし歯や歯周病のリスクが増加します。さらに、免疫力の低下により風邪やインフルエンザなどの感染症にもかかりやすくなることが報告されています。加えて、顎関節に過剰な負担がかかりやすいため、顎の痛みや疲労感を感じやすくなり、場合によっては頭痛や肩こりなど全身の不調を引き起こすこともあります。
審美面では、顎の形状異常によって、受け口や出っ歯、顔の歪みなどが目立ちやすくなり、自信を失ってしまう方も少なくありません。こうした見た目の変化は、精神的なストレスや自己肯定感の低下につながることがあります。また、かみ合わせの悪さが原因で口周りの筋肉が過剰に働いたり、逆に筋肉が衰えたりすることで、しわやたるみができやすくなり、老けた印象を与えることもあります。
関節円板損傷を予防するためには、以下のような点に注意することが大切です。
- 正しい姿勢を保つ:頭や首の姿勢が悪いと、顎関節にも負担がかかります。
- 頬杖をつかない:頬杖は顎関節に不均等な力がかかる原因になります。
- 硬いものを控える:過度に硬いものを噛むと顎関節に負担がかかります。
- ストレスを管理する:ストレスによる歯ぎしりや食いしばりは顎関節に悪影響を与えます。
- 定期的な歯科検診:咬み合わせの問題を早期に発見することができます。
少しでも顎に違和感や痛みを感じたら、早めに専門医に相談することをおすすめします。早期発見・早期治療が、より良い予後につながります。
まとめ:関節円板損傷からの回復に向けて
関節円板損傷は、適切な診断と治療によって多くの場合改善が期待できる症状です。本記事では、関節円板損傷の基礎知識から診断方法、治療法、予防法まで幅広く解説しました。
顎関節症の主な原因には、顎や骨格の不均衡、歯の欠損や咬み合わせの変化、日常習慣、ストレスなどがあります。関節円板のズレや変形が顎関節症の代表的なメカニズムであり、「カクッ」という音や痛み、開口制限などの症状が現れます。
顎変形症には上顎前突、下顎前突、小下顎症、開咬症、顔面非対称などのタイプがあり、これらを放置すると、機能面、健康面、審美面でリスクが生じます。
診断には、AIを活用した独自のデジタル診断など最新技術が活用され、矯正だけでなく顎関節や顎のズレまで含めた総合的な診断が行われます。治療には保存的治療と外科的治療があり、症状や原因に応じて最適な方法が選択されます。
関節円板損傷を放置するリスクは大きいため、早期発見・早期治療が重要です。また、正しい姿勢の維持や頬杖を避けるなどの日常的な予防も大切です。
顎の痛みや違和感でお悩みの方は、ぜひ専門医に相談してください。表参道AK歯科・矯正歯科では、顎関節症や顎変形症に対する専門的な診断・治療を提供しています。一人ひとりの症状に合わせた最適な治療計画を立案し、見た目と機能の両立を目指す包括的な治療をご提供いたします。
顎関節の健康は、全身の健康や生活の質にも大きく影響します。早めの対応で、快適な日常生活を取り戻しましょう。
詳細は表参道AK歯科・矯正歯科の公式サイトをご覧ください。
表参道AK歯科・矯正歯科 院長:小室 敦

https://doctorsfile.jp/h/197421/df/1/
略歴
- 日本歯科大学 卒業
- 日本歯科大学附属病院 研修医
- 都内歯科医院 勤務医
- 都内インプラントセンター 副院長
- 都内矯正歯科専門医院 勤務医
- 都内審美・矯正歯科専門医院 院長
所属団体
- 日本矯正歯科学会
- 日本口腔インプラント学会
- 日本歯周病学会
- 日本歯科審美学会
- 日本臨床歯科学会(東京SJCD)
- 包括的矯正歯科研究会
- 下間矯正研修会インストラクター
- レベルアンカレッジシステム(LAS)
参加講習会
- 口腔インプラント専修医認定100時間コース
- JIADS(ペリオコース)
- 下間矯正研修会レギュラーコース
- 下間矯正研修会アドバンスコース
- 石井歯内療法研修会
- SJCDレギュラーコース
- SJCDマスターコース
- SJCDマイクロコース
- コンセプトに基づく包括的矯正治療実践ベーシックコース (綿引 淳一 先生)
- 新臨床歯科矯正学研修会専門医コース 診断・治療編(石川 晴夫 先生)
- 新臨床歯科矯正学研修会専門医コース 応用編(石川 晴夫 先生)
- レベルアンカレッジシステム(LAS)レギュラーコース
- 他多数参加






